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赤目無冠のぶろぐ

アニメ、将棋・麻雀、音楽(作曲、DTM、ベース)、思想など

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日本将棋連盟『第2回 電王戦のすべて』(2013年7月発行)のまとめ

2013年7月に発行された日本将棋連盟による『第2回 電王戦のすべて』をまとめる。
興味のある方は一番下のアマゾンからどうぞ。
省略している部分もあるので、詳細は買って確認した方がよい。



そもそも「第2回 電王戦」とは?

 2013年3月~4月に行われたドワンゴ主催の将棋棋戦。
 プロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋プログラムが戦った(持ち時間は4時間ずつ)。
 ニコニコ生放送で中継され、累計200万人以上が視聴した。
 
 結果は以下。先手・後手の順に記した。

 第1局:阿部光瑠四段 vs 習甦…阿部が勝利
 第2局:ponanza vs 佐藤慎一四段…ponanzaが勝利
 第3局:船江恒平五段 vs ツツカナ…ツツカナが勝利
 第4局:Puella α vs 塚田泰明九段…持将棋になり引き分け
 第5局:三浦弘行八段 vs GPS将棋…GPS将棋が勝利

 3勝1敗1引き分けでコンピュータの勝ち。ついにコンピュータが人間に勝ち越す時代になった。
 特に第5局の三浦はかつて七冠を取った羽生のタイトルを最初に奪取したプロ中のプロ。
 彼が負けるということは、コンピュータが既に羽生並の力を有している可能性が高いということである。

 ※因みに、第1回は2012年1月に、米長邦雄永世棋聖ボンクラーズによって行われた。
  結果はボンクラーズの勝ち。
  引退した棋士が相手だったとはいえ、コンピュータがプロ棋士に勝てる可能性はこの時点で既にあった。



この状況に対して、

 



 羽生善治「成り行きを見守ろうと思います(自身の対局の意思は明確にせず)」
  「第1回電王戦の敗因は膠着状態を維持せずに打開して隙が生じたこと。我慢比べだった。」
  「コンピュータは人間が考えない手を指すので研究が大事。
   プログラムそのものがどうできているかなど、将棋の研究とは全く違うこともやる必要がある。」
  「コンピュータ将棋の可能性は大いにある。(インターネットもそうだが)将棋を始めるきっかけにもなる。
   テクノロジーの進歩を前提にして考えなくてはいけない。
   止まらないものに対してどうこう言ってもしかたない。」

 亡くなられた米長邦雄「一番大事なことは(人とコンピュータの)共存共栄」



【第1局 阿部光瑠四段 vs 習甦】

 阿部は当初、提供してもらったコンピュータ将棋ソフト・習甦に惨敗だった。
 持ち時間1時間、切れたら1分というルールで8連敗した(この時点でプロの第一感を既に凌駕していることが分かる)。
 振り飛車にして勝つことも考えたが、習甦の居飛車穴熊が異常に強いため、勝てない。
 そこで相居飛車に的を絞る。その中で習甦のクセを見抜く。具体的には、角換わりの先後同型における穴を発見。
 300局以上指し、力戦では無理で、角換わりか矢倉に勝機があると判断。
 
 「やるべきことは全部やった」

 当日は先手の一手損角換わりという珍しい形に誘導。
 「コンピュータは早めの端歩を受けない」というクセを知っていたため、
 9五歩と端の位を取ることに成功(巧妙な駆け引きがこの時点であったとは…おそるべしプロ棋士の研究)。
 6六歩を保留し、6五桂の暴発を誘う
 (因みにこの暴発はボナンザなどがよくやるソフト特有の暴発で筆者も何度か経験がある)。
 この作戦が功を奏し、駒得に成功。
 さらにコンピュータが終盤で一手パスに近い手を指したため、無条件で馬ができ、ますます優勢に。
 厳密には難しい局面が何箇所もあったが、習甦がその変化をすべて見落としたため、結果としては大差で勝利。

 思うに阿部は用意周到だった。機械だからと見くびってはいない。機械と真摯に向き合っている。
 羽生の言う通り、将棋ソフトもプロ棋士と同じような一人の人間として扱い、丁寧に研究すべきなのだろう。

・習甦開発者・竹内への質問、形勢評価グラフ、夢枕の観戦記など(省略)

・コンピュータ将棋の歴史を語る…柿木と棚瀬の対談。
  話によると、2008年にアマチュア高段者の清水上と加藤が既に負けている。
  このあたりでもう一般人がコンピュータに勝つことは難しくなっていたと考えられる。



【第2局 ponanza vs 佐藤慎一四段】

 「棋士がコンピュータに負ける――。そういう日が遠からず来ることがあるとしても、
  そこに自分が対局者としているなんて、一体いつから想像できただろう。」

 佐藤によると、コンピュータ将棋は冷徹で隙が少ない。人間のように動揺しないという点で強いようだ。

 対局当日、佐藤も阿部と同じように角換わりと矢倉を研究していたが、序盤で定跡を外され、神経を使う展開に。

 途中、棒銀を警戒して端歩を受けず△5三銀と指すが、これが疑問手ですかさず▲1五歩と端の位を取られてしまう。
 ここは△1四歩とゆっくり指すべきだったらしい(このあたり9五歩と突き越した阿部と対照的)。
 これにより、ジワジワと手厚くされ、守勢に。
 △6五桂を先受けする▲8七金など、独特の手で翻弄される(厳密には▲8七金は疑問手らしいが)。

 しかし▲6六銀△5五歩あたりで逆転。
 観戦記で先崎も▲6六銀は疑問手と判断している。プロ的には一目でおかしいと思う手のようだ。

 だが終盤のコンピュータの無理攻めが凄まじく、途中で受け間違えてしまう。
 具体的には、△2六馬として入玉するチャンスを逃してしまう。
 コンピュータは入玉を軽視する傾向があるため、是非とも意識すべき構想だった。
 どうも受け止めようと思いすぎたらしい(序中盤で神経を使いすぎて疲れていたのもあるのかもしれない)。
 さらに、△7七歩を入れずに△7三桂としてしまい、勝てない流れに。
 これにより、コンピュータがプロ棋士に平手で初勝利。

・ponanza開発者・山本への質問など(省略)

・プロ棋士・先崎の観戦記
  フィッシャーから始まるチェスの話が印象的。
  話によると、人間を倒したコンピュータチェス「ディープ・ブルー」は、
  アメリカがソ連を負かすためにIBMと結託して開発したものらしい。
  つまり国家レベルで本気を出せばコンピュータが人間を超えるのは難しいことではない。お金と情熱の問題に過ぎない。
  非常にクールで妥当な見解と言えよう。
  とはいえ、それでも同業者であるプロ棋士が平手で負けたという事実は感慨深いものだったらしい。



【第3局 船江恒平五段 vs ツツカナ】

 船江も当初はあまりコンピュータに勝てなかったらしい。

 当日は正攻法で粘られることを恐れていたが、4手目が個人的に馴染みのある7四歩だったため、ホッとする。

 序盤はソフト特有のクセのおかげで有利に。
 具体的には、コンピュータは1.飛車先の歩交換の価値を低く見る、
 2.半端な駒組みのまま無理攻めする傾向がある、3.角の価値を低く見る。

 しかし良いはずなのに差が広がらないという不穏な状況がしばらく続き、2二金打あたりから混戦模様に。
 そして5五香で局面が複雑化し、優劣不明に。

 猛然と寄せに来るツツカナ。我慢して粘る船江。
 そして終盤、意外にもコンピュータの方がミスをする。6六銀という悪手で形勢は一気に船江に傾く。

 しかし、船江も時間に追われて7二竜という一手パスに近い手を指してしまったため、再びもつれる。
 さらに2五桂打としてしまい、ツツカナペースに。正しくは単に2五桂。
 以降はあまりよいところがなく、ツツカナが勝つ。

・ツツカナ開発者・一丸への質問、観戦記など(省略)



【第4局 Puella α vs 塚田泰明九段】

 塚田もコンピュータに勝つために様々な対策を行っていた(日記形式で説明している)。
 ソフトが入玉形に弱いということを知るも、押さえ込みの棋風ではないため、困っていた。
 コンピュータは「昔の谷川浩司みたいな将棋」。
 持ち時間がいつもの6時間ではなく4時間であることを懸念していた。

 当日、4手目を11年振りに△4四歩にして、コンピュータが暴発する局面に誘導しようとするが、
 プエラは暴発することもなく淡々と指す。
 それにガッカリし、序盤でいきなり△6四銀、8四歩という疑問手を指してしまい、▲8三銀を許す。
 △9四歩と待つべきだった。
 
 しかしプエラも▲2九飛という疑問手でと金作りを許してしまう。

 途中、▲4六歩という好手が出る。プエラらしい攻めの手。
 
 その後、手堅く指しすぎて△1五角と出るチャンスを逃し、入玉して勝つことを考え始める。

 ところが困ったことにプエラも入玉し始める!
 このままでは持将棋になってしまう。しかも大駒がないので点数が足りず負けてしまう。大ピンチに。

 が、幸いなことに、プエラは持将棋の点数(大駒5点、小駒1点)を認識していなかったため、あっさり大駒を明け渡す。
 これにより持将棋がどうにか成立し、引き分けに終わる。

 対局後、泣く。

・観戦記によると、野月推奨の△1三桂を指すべきだった。
 それを指さなかったために▲4一金と打たれ、駒損に苦しむことになった。



【第5局 三浦弘行八段 vs GPS将棋】

 三浦は当初、負けた時のリスクが大き過ぎるため、出場したくなかったが、
 スポンサーのドワンゴニコニコ動画)の直接依頼だったため、恩返しとして引き受けた。
 もともと断れない性格だったというのもある。
 それとコンピュータが人間を超える前にさっさと出場して勝った方がよいという判断もあった。

 しかしなまじ順位戦の成績がよく、名人戦挑戦の可能性もあったため、気持ちの切り替えに苦労した模様。

 当日は指しなれた戦型を採用。具体的には、角が睨み合う「脇システム」にする。

 △7五歩~8四銀という変わった手を無理攻めと判断し、▲7四歩として一歩得を主張する。
 そして▲7六銀と銀をぶつける。ここは▲4六角や▲6五歩も有力で分岐点だった。

 その後、自陣を堅め、▲6七金と盛り上がり、相手の攻め駒を押さえ込みに行く。
 このあたりは駒落ちの上手を彷彿とさせる指し方だった。最善かは分からないが、方針は一貫している。

 次に分岐点となったのは▲8三金のところ。
 ここは▲8四歩、▲8三歩、▲1五歩なども考えられるところだった。
 特に▲8三歩は有力で、バラバラにはなるが、飛車得しながら粘れる順がある(詳しくは本書参照)。

 しかし△8八歩が盲点となる手。この一手で急に苦しくなる。
 以降は消去法に近い手が続き、あっさり縛られ、負ける。

 対局後、「どこが悪かったのかちょっと分からない」(トッププロでも分からないって・・・おそるべしGPS)

・GPS将棋開発チームへの質問、観戦記など(省略)



まとめ

とうとうコンピュータが元タイトルホルダーのA級棋士を負かす時代になった。
つい10年前までは駒落ちで勝つこともできなかったことを考えると感慨深い。

この勢いならコンピュータの棋力が羽生に及ぶ可能性も高い。
2ちゃんねるの「ソフト厨」と呼ばれる過激なコンピュータ将棋崇拝者は、
「プロ(人間)はもういらない」「羽生を出せ」「羽生との対局を避けるのは卑怯」と煽っている。
確かに羽生に勝つこともある三浦が負けるのだから、指すならもう平手でいいだろう。
羽生が負ける可能性も十分考えられる。

その際、プロ棋士の存在意義や沽券、矜持といったものは今後どうなってしまうのか。
去年、亡くなった米長さんが言われていたように、
人とコンピュータの共存共栄を考えるべき時期に差し掛かっているのではなかろうか。

10年前は可愛い子供のようだったコンピュータが、我々に手を諭す師範になってしまった。
まったくとんでもない時代になったものである。

 

第2回電王戦のすべて

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