安藤寿康による『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SBクリエイティブ、2016年12月)のメモ書き
(要約・まとめ・考察・感想・レビュー)
※個人的に気になるところだけをまとめた。全要約ではないので注意。
はじめに
これは(科学的に)当たり前のことを当たり前に書いた本。
人は幸福になるようにデザインされているわけではないが、現実には幸福を感じて生きている人もたくさんいる。
それは遺伝的才能を生かす道がこの社会にひそんでいるから。
科学的な根拠は行動遺伝学。
著者は行動遺伝学者であると同時に教育心理学者でもある。
最近は「進化教育学」という新しい看板も掲げ始めている。
第1章
・悪名高い優生学
19世紀、イギリスのフランシス・ゴールトンが優生学を提唱(背景にダーウィンの進化論あり)。
これをナチス・ドイツのアドルフ・ヒトラーが悪用。
アーリア人を優等人種、ユダヤ人を劣等人種とみなす。これがホロコーストに繋がる。
以降、優生学は差別に繋がる危険思想だと考えられるようになり、避けられるようになる。
戦後、イギリスの心理学者・サー・シリル・バートが双生児の知能検査の研究データを発表。
いわく、一卵性双生児の形質は二卵性双生児のそれよりも似ている。つまり心理的な形質は遺伝する。
しかしデータの捏造疑惑が浮上(相関係数が小数点第3位まで一致していた、共同研究者がいない、など)。
それをメディアも大きく報道。
その後、ロバート・ジョインソンとロナルド・フレッチャーが
「データ捏造の客観的な根拠はなく、事件はメディアによって不当に誇張されている」と反論するが、
遺伝の影響を認めたくない人は未だにデータの捏造を信じているらしい。
アメリカの行動学者リチャード・ハーンスタインと、チャールズ・マレーが1994年に書いた『ベルカーヴ』
によると、白人と黒人の知能の差は遺伝的なものなので、アファーマティブ・アクションは意味がない。
知能の差は変えられないものなので、知能の低い人も生きやすい社会をつくるべきである。
アメリカのトランプ当選は知的エリート優遇に対する反逆か?
スティーヴン・グールドは『人間の測りまちがい』という本を書き、反論。
いわく、IQなどは統計学によって人工的につくられた実体のない概念。
統計学者にとってはトンデモ本だが、政治的には受け入れられた。
・著者は元々、強固な環境論者だった(遺伝や才能の影響を否定していた)。
しかし研究した結果、遺伝の影響も無視できないという結論に達した。
第3章
・双生児研究のサンプルの大きさ:子供から青年までのグループ500組、成人のグループ500組
・一卵性双生児のIQの相関係数は0.72、二卵性双生児のそれは0.42
※相関係数を発明したのは第1章のフランシス・ゴールトン
・相関係数から遺伝と共有環境(家族、親)と非共有環境(それ以外)の影響を算出
一卵性双生児の遺伝子の共有率は100%、二卵性双生児のそれは50%→2:1の関係
1-相関係数=非共有環境の寄与率
一卵性双生児の相関係数=遺伝の寄与率+共有環境の寄与率
二卵性双生児の相関係数=0.5×遺伝の寄与率+共有環境の寄与率 (上述の2:1の関係より0.5と判断可)
この仮説に基づいて算出していく
・結論:人間の行動のほとんどは遺伝+非共有環境で説明可
しかも遺伝の影響力は成長とともに徐々に上がる!
(長く生きていれば環境の影響が大きくなりそうだが、実際は逆)
指紋、体重、身長→遺伝が90%
音楽、執筆、数学、スポーツ→遺伝が80%
(外国語は共有環境の影響が大きい)
統合失調症、自閉症、ADHD→遺伝が80%
共有環境の影響が大きいのはアルコール、喫煙、マリファナ
第4章
・才能がある人は「先が見えている」
・遺伝的な素質はあとから変化することもある(エピジェネティクスと検索)
・収入と遺伝について
山形や中室らによる日本における20~60歳までの男性の双生児データによると
20歳の時は遺伝(20%)よりも共有環境(70%)の影響が大きい(最初は親の七光りが通用する)。
しかし年齢が上がるにつれ、遺伝の影響が大きくなり、共有環境の影響が小さくなる。
女性の場合、収入に対する遺伝の影響は生涯にわたりほぼゼロ。
女性の潜在能力がまったく収入に反映されていない。
・優秀な家系はマウス30世代(人でいうと1000年以上)でようやく誕生
ある階層の男女から生まれた子供の形質は分散し、一定の確率で別の階層へ飛び出していく
よって遺伝によって階層が完全に固定化されることはない
・家柄(共有環境)よりも才能(遺伝)
年をとるほどそうなる
あとがき
橘玲による『言ってはいけない 残酷すぎる真実』に便乗した