最近、アニメの売り上げ枚数に注目している。いずれ年表にしてその内容をまとめてみたいと思っている。
しかし、それを書く前に、どうしても注意しておきたいことがある。
それは作品が売れることとその内容が面白いことが一致するとは限らないということである。
通常、面白ければ面白いほど売れる傾向があるため、調べてみればある程度の正の相関は得られるだろう。
わざわざ積極的に面白くないものを買う人がいるとは思えないからである。単純化すればそういう結論になる。
しかし、それはあくまで全体の傾向に過ぎず、完全に「売れる=面白い」が成立するわけではない。
それに「面白さ」というものは人によって違うものなので、それを数字で示すのはかなり難しい。
強いていえば、「売れる=面白い」ではなく、「売れる=面白いと思っている人がたまたま多い」、といった程度であろう。
また、以下のような副次的なバイアスに影響されることも考慮する必要がある。
今回はこの様々なバイアスを列挙することで、売れることと面白いことを峻別しておきたい。
0.「そもそも値段の影響を受けるから枚数ではダメでは?」という定義の問題
安いものはたくさん売れるが高いものは少ししか売れない。
だからdvdやBlu-rayの値段が著しく違う場合、売り上げ枚数だけで比較しても意味がない。
「売り上げ枚数ではなく、売り上げ額で」という考え方もあるのでは?
1.生産者の努力だけではどうにもならない外的な偶然の影響
1‐1.景気の影響を受ける
好景気だと売れるが、不況だと売れない。娯楽品はこの影響を受け易いと思う。これは個人の力だけでは変えられない。
例えば、好況下で2万枚売れたA商品と、不況下で1万5千枚売れたB商品を安易に比較することはできない。
景気を無視するならA>Bと考えてよいが、B商品も好況下で売ったら2万枚ぐらい売れたかもしれない。
この話に決着をつけるためには、景気の影響が数字でいくつぐらいなのか示す必要がある。
1‐2.タイミングで変わる
(先の景気の影響と重なるが)酷い内容でも、好況下なら売れてしまう可能性がある。
また、たまたま他にライバルがいなかったために相対的に売れてしまうこともある。
タイムリーな内容で、流行に乗っていることも影響するだろう。
例えば、アイドルものを創った後に偶然アイドルグループが流行れば通常よりは売れるかもしれない。
しかし、いずれも作品の内容そのものとは関係ない。外的な状況がどうだったかの問題にすぎず、偶然に左右され易い。
2.作者独りの努力ではどうにもならないが、生産者の努力で変わり得る要因
2‐1.原作のレーベル(出版社)、制作会社、放送局(≒視聴率)などの知名度に影響されやすい
例えば、ジャンプ原作のアニメは知名度があるため売れる。ジブリや京都アニメーションは有名なので売れる。
有名な放送局のゴールデンタイムに放送すれば視聴率が高いため売れる。
しかし、これらはいずれも原作のレーベル、制作会社、放送局などの知名度に助けられているだけであり、
売れたとしてもそのことが内容の面白さを担保するわけではない。
いずれも「下手な鉄砲も数撃てば当たる」を踏襲しただけである。
2‐2.制作者や役者の過去の実績に依存する→固定客の存在
「この監督だから」「この声優だから」というふうに見ている人がいるということ。
「この人の作品はたとえ駄作だったとしても買う」と決めている固定客がいると、作品の良し悪しに関係なく売れてしまう。
同様に、第2期以降のアニメも第1期のファンが既にいる分、少し有利であろう。
何でもそうだが過去の実績に頼った方が、新規開拓するよりも楽だし、間違いがない。
(まぁ2が出るということは1がそれだけ面白かったということだから、1に関しては素直に認めるべきだろうが)
2‐3.宣伝(費用)に依存する
当然ながら、普通は宣伝すればするほど売れる。
しかし、作品によって宣伝にかける費用が違うため、単純な比較ができない。
例えば、4億円分の宣伝をして2万枚売れたA商品と1億円分の宣伝をして1万枚売れたB商品を考えてみたい。
この場合、売り上げのみで判断するならA>Bだが、「Aは4億円もかけたから売れただけ」と反論できる。
そこで単位宣伝費用当たりの売り上げを算出してみる。
すると、Aは1億円分の宣伝につき5千枚売れ、Bは1億円分の宣伝につき1万枚売れたことになる。
従って、単位宣伝費用当たりの売り上げで比較するとB>Aと逆転することになる。
Bの方が(宣伝)費用対効果が高いと言ってもよい。
それと最近ではステルスマーケティング(消費者に宣伝と気づかれないように宣伝すること。「サクラ」や「やらせ」。)
も確認されている。具体的にはソニーの子会社、アニプレックスのステマ騒動が有名(詳しくはググって)。
炎上商法もあるし、自社が自ら買い支えることで数字を水増しすることもやろうと思えばできる。
2‐4.営業力(売り込み方)に依存する
売り込み方が上手いかどうかという営業力も関係する。
作者のセンスだけでは世の中は動かない。編集者などのセンスも影響する。
例えばイベントチケットなどの特典をつける抱き合わせ販売で、売り上げ枚数を上げることができる。
だがこれは作品そのものの面白さとは関係ない。
3.消費者の対応で変わり得る要因
3‐1.ファンの消費性向に依存する
これはその作品のファンがどれぐらいお金を使う人かで、売り上げが変わるということ。
例えば金持ちが好む作品の方が貧乏人が好む作品よりも売れるだろう。
しかし、貧乏人も生活に余裕がないだけで、本当は欲しいと思っているかもしれない。
そういう潜在的な需要は売り上げだけでは決して分からないと思う。
あるいはマニアックな層にたまたま受けて売れることもある。
アニメをメインの趣味としているマニアに受ければ、アホみたいにお金を使ってくれるかもしれない。
(そもそも一般人は何千円もするアニメをほとんど買わない。せいぜいレンタルだけだろう。
そういう意味ではレンタル回数の方が指標としては安定しているかもしれない。)
3‐2.見た目がよいものの方が売れてしまう
しばしば「見た目で差別するな」とたしなめられるわけだが、実際には見た目でかなり選んでいると考えられる。
例えば作品内で登場する女の子が可愛いだけで買う人がいる。その子のお色気シーンを目当てにしている人もいる。
我々はこのような人間を「萌え豚」と揶揄し「最近のアニメは萌えアニメばかりだ」と批判するわけだが、
資本主義である以上、実際にお金を出してくれる人を否定するわけにはいかない。
それに考えてみればアニメは日本語で動画――絵が動いてなんぼの世界である。だから過度に高尚さを追求しても仕方ない。
何でもそうだが見た目のインパクトは商品を売るうえでかなり重要で、それがダメだと中身まで見てもらえない。
だが、こうした短絡的な判断は、本能に基づいてポルノを見るようなもので、知的な意味での面白さ(≒中身)を軽視している。
純然たるファンのために、そのことを一応は指摘おくべきであろう。
以上のバイアスを踏まえたうえで、売り上げの数字を語るべきであろう。思いつく限り挙げてみた。
要するに他の条件を一致させて評価しない限り、売り上げの数字だけで安易に作品の優劣を決めることはできないと言いたい。
違った条件下で測定したものを同じものとして比べても、意味がない。
物理で言うなら、単位が全く違うものを比べて一喜一憂しているようなものであり、不毛である。
裏を返せば、このことは売り込み方がかなり重要であることを意味している。
作品そのものが平凡でも、上記で述べた条件がよければ、売れる可能性がある。