赤目無冠のぶろぐ

アニメ要約・批評、仮想通貨(ビットコイン、モナコイン)、将棋・麻雀、音楽(作曲、DTM、ベース)、思想など

帰ってきたニートの一日の作者。詳しくははじめにへ。

『君の名は。』の批評

「今さらかよ」と言われるだろうが、今回は『君の名は。』を批評したい。
2年前(2016年)に話題になった映画なので無視できないと判断した。


結論から言うと、良い面と悪い面がある普通の作品だと思う。
酷評するほどの作品でもないし、絶賛するほどの作品でもない。

-----

まずは良い面から。
本作のつかみは非常によい。音楽用語で評するならキャッチ―な作品であり、全体的に分かりやすい。

特に大衆がSFやファンタジーのようなマニアックな要素を難なく受け入れたのは大きい。
これはおそらく現実主義者でも受け入れやすい男女のすれ違い(恋愛もの)をテーマにしているから。
だから実際にはありえないような話でもギリギリ見られる構成になっている。


たしかに目の肥えた人にとっては商業的で、ありきたりな作風である。
だがよく見ると、細かい部分もちゃんと描かれている。

たとえば序盤で生徒が「かたわれどき」について教師に尋ねる場面があるが、ここは大事な伏線である。
あっさりとした場面なので、1回目だと見逃しやすいが、
実はこれこそが彗星が2つに割れても最後に会おうと画策する男女の関係、すなわち本作のテーマを示唆している。

このように深く考察できる場面は確実にあった。


加えて、男女の入れかわりや時系列が若干ややっこしいので、
そのあたりを丁寧に整理したいマニアとしても、繰り返し見たくなる要素が随所にある。

そうなると必然的にリピーターが増えることになる。
実際、NTTコム リサーチ 第6回「映画館での映画鑑賞」に関する調査
https://research.nttcoms.com/database/data/002071/)によると、
男性若年層の約4人に1人がリピート鑑賞している。全体では16.8%のリピート鑑賞率である。

第3回「映画館での映画鑑賞」に関する調査
https://research.nttcoms.com/database/data/001895/)によると、
ディズニーの『アナと雪の女王』のリピート鑑賞率は10%なので、16.8%はなかなかの率である。


また、鑑賞率は70代以上の層を除き、すべての性年代で30%を超えているので、
一部の若者のみが騒いでいるだけだという批判も実証的には否定される。

これは言い過ぎかもしれないが、最近はアニメに対する偏見が昔ほどはないのかもしれない。
ブログを巡回したところ、批判者の多くが「こんなものが大衆作になったら世も末」という見解で、
いわゆるオタク・マニアなどといったものが主流になることはないという前提で批判しているのだが、
この前提が既に間違っている可能性がある。

インターネットであらゆるものにアクセスできる今日、マイノリティに対する抵抗感は、昔ほどはない。
そうなると何が大衆的なのかも徐々に変わっていくと考えられる。
映画業界の作り手や評論家がこうした時代や大衆の変化を冷静に読めていない。

…とまぁ、このように可能性を感じる面は多々あった。

-----

しかしながら悪い面もあった。
具体的には、最後の過程が粗削りで、ご都合主義だった。

たとえば主人公とヒロインがひかれ合っていく過程や理由をもっと丁寧に描いて欲しかった。
特に男(瀧)が都会の学校のクラスでどういう存在なのかが最後までよく分からなかった。
全体的に男側の描写が弱かった。

それと最後は大衆的なハッピーエンドにするために、女(三葉)が助かり、
社会人になった2人が奇跡的に出会う話に無理やり変更したのではなかろうか。
これがご都合主義だ、という批判である。
つまり前半はものすごく丁寧な構成なのに、後半は一つ一つの過程が短く、駆け足気味になってしまっている。

これは私の邪推に過ぎないが、実のところ新海誠
秒速5センチメートル』のような悲観的な作風の方が本来は得意なのではなかろうか。
つまり『君の名は。』のヒロインも現実的にはあの彗星の落下で死んでいて、実際には会えない。
そしてやりきれない想いが残ったまま主人公は老けていく。
そんな展開も十分に考えられたと思うし、この方がコアな層に受けそうではある。

しかしそれでは大衆に受けないし、あまりにも酷いので、
ハッピーエンドにするために、無理して青臭い理想を描くことにした。
そのような新海誠なりの苦悩が私には見えるのである。
そしてその理想的すぎる面が批判者としては気に食わないのだと考えられる。

-----

というわけで両論併記になってしまったが、
良い面と悪い面が混ざっている作品なので、私としては普通の映画だった。そう言うしかない。

批評していて思ったが、ひょっとすると賛否両論ある作品だから売れたのかもしれない。
物議を醸す内容は話題にしやすいからである。ある意味でネットの炎上商法に近い。

実は1990年代も『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』というアニメ映画
の独特のラストがちょっとした話題になった。
君の名は。』にはエヴァほどややっこしい要素はないが、
あえて多くを語らないで視聴者に考察を委ねるという形式は意外と似ている。

このあたりに爆発的にヒットした要因が隠れているのかもしれないので、
業界関係者はこの「物議を醸す(センセーショナルである)」という要素を徹底して議論した方がよいと思う。
もしこの点を見抜いたうえで新海誠が『君の名は。』を作っていたとしたら、彼は天才的な策士である(笑)。