赤目無冠のぶろぐ

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帰ってきたニートの一日の作者。詳しくははじめにへ。

低炭水化物(糖質制限)食の是非について

今回は(一部で)有力なダイエット(健康)法だと言われている低炭水化物(糖質制限)食の是非について


※本記事は漫画「ニートの思想」第63話~第65話の「ニートが考える糖質制限の是非」をまとめたもの
 (閲覧するためにはニコニコの無料アカウントが必要)

 http://seiga.nicovideo.jp/comic/17479
 http://seiga.nicovideo.jp/watch/mg392200
 http://seiga.nicovideo.jp/watch/mg392389
 http://seiga.nicovideo.jp/watch/mg392608


念のために確認すると、炭水化物=糖質+食物繊維。炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質。
これは上で示した漫画「ニートの思想」第34話~第44話の「ニートのメタ栄養学」で話した。


その中の第42話(http://seiga.nicovideo.jp/watch/mg373483)で私はこう説明した。
低炭水化物食は総死亡率を上昇させるという能登洋氏らによるメタアナリシスがあるから
無茶な低炭水化物(低糖質)ダイエットは推奨しない。

能登洋氏らによる論文は以下。
PMID: 23372809
Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality:
A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0055030


しかし最近、この論文を熟読した結果、考え方が変わってきた。
というわけで今回はそれをテーマにしたい。

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前述した通り、たしかに低炭水化物食にすると死にやすいのかもしれない。
しかしそれは相関関係に過ぎず、因果関係ではないのでは?
そういう疑問がある。


実際、この論文のDiscussionに以下のような文がある。
Low-carbohydrate diets tend to result in reduced intake of fiber and fruits,
and increased intake of protein from animal sources, cholesterol and saturated fat
「低炭水化物食は繊維や果物の量を減らし、
 動物性の蛋白質コレステロール飽和脂肪酸の量を増やす傾向がある」


つまり、低炭水化物食だから→死亡率が上がる、は間違いで、これは単なる擬似相関。

低炭水化物食だから→動物性食品ばかりになり(植物性食品が少ない)→死亡率が上がる。
これが正確な因果関係なのではなかろうか。

すなわち、低炭水化物食は死亡率を上昇させる間接的な原因に過ぎない。
直接の原因は動物性食品の摂り過ぎ。


このDiscussionには以下のような文もある。

Subgroup analyses suggested that low-carbohydrate diets might increase the risk of mortality and CVD
in animal-based dietary patterns whereas they might decrease the risk in plant-based diets
「サブグループ分析は、低炭水化物食は動物ベースの食事パターンにおける
 死亡率とCVDのリスクを高める可能性がある一方、
 植物ベースの食事におけるリスクを減らす可能性があることを示唆した」

It is possible that the beneficial effect of plant protein may have been offset
by the adverse effect of animal protein in our calculations
「植物性蛋白質の有益な効果が、私達の計算では動物性蛋白質の悪影響によって相殺された可能性がある」

※CVDはcardiovascular disease、心血管疾患、心臓や血管に関連した病気


つまり以下のような構造になっている可能性がある。

低炭水化物食で動物性食品ばかりになると→死亡率が上がる
低炭水化物食で植物性食品ばかりになると→死亡率が下がる

これが厳密な因果関係なのかもしれない。

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この考え方を示唆しているのが、Fung氏らによる論文。

Fung氏らによる論文は以下。
Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: Two cohort Studies
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2989112/
能登洋氏らの論文のサブグループ分析、References 7)


Fung氏らの論文によると、
高炭水化物食(全摂取エネルギーの約60%)の人達よりも、
低炭水化物食(全摂取エネルギーの約35~40%)の人達の方が、総死亡リスクが12%高い。

特に低炭水化物食+動物性食品の人達は高炭水化物食の人達よりも総死亡リスクが23%も高い。

一方、低炭水化物食+植物性食品の人達は高炭水化物食の人達よりも総死亡リスクが20%低い。

(いずれも統計的に有意な差)


というわけで、死亡リスクが上がってしまう原因は
炭水化物(特に糖質)を減らすことではなく、それによって動物性食品を摂り過ぎること。

つまり植物性食品もきちんと摂れば、低炭水化物食は有力な食習慣かもしれない。
低炭水化物食+植物性食品なら死亡リスクが低減するわけだから。

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2018年に発表されたメタアナリシスでも似たようなことが述べられている。

2018年に発表されたメタアナリシスは以下。
Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis
https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(18)30135-X/fulltext


この論文によると、炭水化物からのエネルギー摂取の比率と死亡率の間にはU字型の関連がある。

すなわち、炭水化物は多過ぎても(全摂取エネルギーの70%超)、
少な過ぎても(40%未満)死亡リスクを上昇させる。

最も死亡リスクが低いのは50~55%。


これだけを読むと「結局バランスなのでは」と思うかもしれないが、
この論文によると、炭水化物を動物由来の脂肪や蛋白質に置き換えると死亡率が上昇し、
植物由来の脂肪や蛋白質に置き換えると死亡率が低減する。

つまり最善はやはり低炭水化物食+植物由来の脂肪や蛋白質である可能性がある。
これはFung氏らの論文の見解と合致する。


考えてみれば、漫画「ニートの思想」第34話~第44話で解説したメタ栄養学でも、
植物性食品(特に野菜)は全般的によいもので、否定的な見解が少なかった。

というわけで、栄養学における王者は野菜類だと考えられる。

時代は草食系。道理でヴィーガンベジタリアンが一部で流行るわけである。


最善は低炭水化物食+植物性食品。
低炭水化物食(いわゆる糖質制限)は、植物性のものもきちんと摂るという条件つきなら、
成立する可能性がある。これが今の私の考え方である。

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そもそも炭水化物(特に糖質)は重視すべきものではない。
蛋白質には必須アミノ酸というものがあるし、脂質にも必須脂肪酸というものがある。
しかし炭水化物(特に糖質)にはそういったものがない。


厚生労働省による、日本人の食事摂取基準(2015年版)報告書における、
各論の炭水化物(PDF:947KB)のp.144によれば、
「肝臓は必要に応じて、筋肉から放出された乳酸やアミノ酸、脂肪組織から放出された
 グリセロールを利用して糖新生を行い、血中にぶどう糖を供給する」。

各論の炭水化物(PDF:947KB)は以下。
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042632.pdf

この「糖新生」があるので、必要な炭水化物(ぶどう糖)の量など算出しようがない。
だから推定平均必要量(並びに推奨量)も耐容上限量も目安量も設定されていない。
最悪、体内で作れる栄養なので算出しようがない。

※最初の方で脳が基礎代謝量の約20%を消費することから、ぶどう糖の最低必要量を算出しているが、
 その後で「しかし、これは真に必要な最低量を意味するものではない」と否定している


もちろんさすがに糖質“ゼロ”を何十年も続けたら何が起こるかは誰にもわからない。
そこまでやると人体実験になってしまうから(苦笑)。
しかし低炭水化物食(緩やかな糖質制限)なら、深刻な問題が生じることはないと言えそうである。
そもそも普通の食生活で糖質量がゼロになることはあり得ない。

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補足:

漫画「ニートの思想」では触れなかったが、以下の論文でも植物性蛋白質が支持されている。

Low Protein Intake Is Associated with a Major Reduction in IGF-1, Cancer, and Overall Mortality
in the 65 and Younger but Not Older Population
https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(14)00062-X

これによると、高蛋白質の食事は死亡率の増加に関連している。
特に動物性蛋白質の多い食事は悪い。
しかし植物性蛋白質なら問題ない。
(カロリーの20%以上なら高蛋白質で、10%未満なら低蛋白質

カニズムとしては、蛋白質によって増えるインスリン様成長因子1(IGF-1)の存在が考えられる。

※ただし、興味深いことに、65歳以降の人達は高蛋白質の食事にした方が死ににくいらしい

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~まとめ~

 昔の自分の考え方:
  無茶な低炭水化物食(糖質制限)は推奨しない

 今の自分の考え方:
  低炭水化物食(糖質制限)+植物性食品であれば推奨できる可能性がある
  (その際、動物性食品の摂り過ぎに注意する)


異論・反論はたくさんあるだろうが、
批判をおそれてしまうと何も言えなくなるので、思い切ってニートの愚考を公開してみた。

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参考url

能登洋氏らによる論文
 PMID: 23372809
 Low-Carbohydrate Diets and All-Cause Mortality:
 A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies
 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0055030

・Fung氏らによる論文
 Low-carbohydrate diets and all-cause and cause-specific mortality: Two cohort Studies
 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2989112/

・2018年に発表されたメタアナリシス
 Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis
 https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(18)30135-X/fulltext

厚生労働省による、日本人の食事摂取基準(2015年版)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html
 →日本人の食事摂取基準(2015年版)報告書→各論の炭水化物(PDF:947KB)
 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042632.pdf

・Low Protein Intake Is Associated with a Major Reduction in IGF-1, Cancer, and Overall Mortality
 in the 65 and Younger but Not Older Population
 https://www.cell.com/cell-metabolism/fulltext/S1550-4131(14)00062-X

糖質制限ダイエットは本当に安全か?
 https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100031/032400299/

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追記:

Q.「具体的な栄養バランスは?」「定量的な話をして」

A.上で挙げたFung氏らの論文のTable 1に従うと、以下のようになる

左から、高炭水化物、中炭水化物、低炭水化物、
高炭水化物+動物、中炭水化物+動物、低炭水化物+動物、
高炭水化物+植物、中炭水化物+植物、低炭水化物+植物を示すと、
男性の場合、以下のようになる。

摂取エネルギー 2012 2007 1881 2010 1995 1867 2012 1971 2034

※単位はkcal(キロカロリー

炭水化物   60.6 47.6 35.2 60.2 47.3 35.2 53.7 46.9 40.1
動物性蛋白質 09.2 13.1 18.2 08.9 13.2 18.8 13.7 13.9 12.6
植物性蛋白質 05.7 05.0 04.3 06.2 05.0 03.9 04.0 04.8 06.1
動物性脂質  11.8 17.6 26.2 10.6 17.8 27.4 18.4 19.0 17.1
植物性脂質  12.3 13.5 13.8 14.4 13.9 11.5 08.9 12.5 21.1

※数字は摂取エネルギーに対する割合で、単位は%(パーセント)

飽和脂肪酸    18 24 32 24 40 57 23 25 26
トランス脂肪酸  2.2 2.8 3.2 2.3 2.9 3.2 2.4 2.9 3.0
一価不飽和脂肪酸 20 26 35 21 27 33 23 27 34
多価不飽和脂肪酸 11 13 15 12 13 14 10 13 18
ω-3脂肪酸    1.2 1.4 1.6 1.3 1.4 1.5 1.1 1.4 1.6

全粒穀物     32 22 14 36 21 13 18 22 21

※単位はg(グラム)

果物と野菜     7.3 5.5 4.3 7.6 5.5 4.2 5.7 5.7 5.3
赤肉と加工肉    0.4 0.6 1.2 0.3 0.8 1.3 0.8 0.8 0.8
甘いソフトドリンク 0.8 0.3 0.1 0.6 0.4 0.2 0.9 0.3 0.1

※単位はservings/day

この中で目指すべきなのは右端の低炭水化物+植物。

駄目なのは低炭水化物+動物。
考えられる欠点は飽和脂肪酸の摂り過ぎ、全粒穀物(食物繊維)の不足、
果物や野菜の不足、赤肉と加工肉の摂り過ぎ。

ポイントは以下。

飽和脂肪酸トランス脂肪酸の摂り過ぎに注意し、
 多価不飽和脂肪酸(特にω-3脂肪酸)を積極的に摂るようにする

・全粒穀物(食物繊維)と果物は炭水化物(糖質)を含むが、適量なら摂った方がよい
 (総じて精製されていない食べ物は良い傾向がある)

・鶏肉と魚は赤肉と加工肉ではないので問題ない。
 特に魚は不足しがちなω-3脂肪酸を多量に含むので積極的に摂る。

・甘い飲み物は精製された高炭水化物食なので、できるだけ減らす