赤目無冠のぶろぐ

アニメ要約・批評、仮想通貨(ビットコイン、モナコイン)、将棋・麻雀、音楽(作曲、DTM、ベース)、思想など

帰ってきたニートの一日の作者。詳しくははじめにへ。

谷川流による『涼宮ハルヒの直観』のまとめ・要約

谷川流による『涼宮ハルヒの直観』のまとめ・要約
角川スニーカー文庫、2020年11月発行、第12巻、イラスト いとうのいぢ

※「直観」は直接に本質を見抜くという意味を示す哲学用語で、「直感」は瞬間的に感じとるという意味

・参考url
  wikipedia涼宮ハルヒシリーズ
  https://ja.wikipedia.org/wiki/涼宮ハルヒシリーズ
  ニコニコの時系列
  https://dic.nicovideo.jp/a/涼宮ハルヒの憂鬱(時系列)
  このブログ→カテゴリー→ハルヒ
  https://akamemukan.hatenablog.com/archive/category/ハルヒ

・表紙はハルヒと鶴屋

・本のそでの文「今一番欲しいものは堅牢強固な意志の力と『新世界より』に出てきた自律機動型図書館」

~カラーの絵~

・袴(はかま)姿のキョンと古泉、振り袖姿のハルヒ長門・朝比奈、
 「みんなの着物姿、か……」と言うキョン→「あてずっぽナンバーズ」

キョンと古泉、ウトウトするメイド姿の朝比奈「……すぅ」、本を読む長門「…………」、
 キョンの独白「二人なりの退屈を示す意思表示なのかもしれない。」→「七不思議オーバータイム」

・プリントを見るハルヒと女生徒(金髪、外国人)、鶴屋、
 キョンの独白「鶴屋さんが送ってきたのは、よりにもよってSOS団への挑戦状だったのだ。」
 →「鶴屋さんの挑戦」

・うがいをするハルヒ、手を洗う長門、マスクを着用する朝比奈、「すっ」

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「あてずっぽナンバーズ」(初出は『いとうのいぢ画集 ハルヒ百花』)

・1月3日。SOS団の5人で初詣のために神社へ。古泉が「775249」と言う。
 (古泉はいつもの駅前の集合場所にキョンより後に到着できない←ハルヒの無意識の望み)

 ※「去年の八月」→5巻『暴走』の「エンドレスエイト
  「雪山合宿」→12月30日→5巻『暴走』の「雪山症候群
  12月31日→6巻『動揺』の「猫はどこに行った?
  1月2日→7巻『陰謀』のプロローグ(4巻『消失』の12月18日の件を解決)

・回想。1月2日。冬合宿の帰りの列車内で鶴屋が自身の振り袖の貸与を快諾し、
 ハルヒと意気投合。希望した報酬は皆の着物姿の写真。(キョンの妹と猫のシャミセン)
 ↓
 1月3日。ハルヒ長門・朝比奈が鶴屋邸で振り袖を借り、
 いつもよりも遅い時間に例の駅前の集合場所へ。無論、キョンは最後に到着。

 ※鶴屋は飛行機でヨーロッパへ→7巻『陰謀』のプロローグによると、スイスへ

・境内で古泉が1月2日のキョン・朝比奈・長門
 昨年の12月18日に行って出発時の62秒後に戻ってくるという時間移動を羨み、
 キョンに次の機会があったら自身も誘うよう願う

・5人で手水舎(ちょうずや)へ。ハルヒと朝比奈が巫女を見る。

 ※お面を見る長門→5巻『暴走』の「エンドレスエイト

・古泉いわく、「775249」は3つの素数の乗算解。
 ヒントは2桁が2つ、3桁が1つ。解けたら景品を貰える。

・他の3人とはぐれ、ハルヒの草履の鼻緒が切れる(賽銭、おみくじ、屋台)。
 キョンが電話越しの古泉の提案に従い、ハルヒを背負う(おんぶする)。
 彼いわく、彼女は餅を食べたので重い。(キョンハルヒの挿絵 / ×お姫様抱っこ)

・鳥居の近くで5人が合流。ハルヒキョンと古泉に袴(はかま)への衣装がえを命じ、
 2人の身長・体重・ウエストサイズを訊く(キョンに「重い」と言われた仕返し?)。
 (長門の応急処置 / 貸衣装店を営む古泉の知り合い、『機関』)
 ↓
 古泉が珍しく言葉を詰まらせ、ハルヒと密談を開始。
 それを見たキョンが3つの素数の乗算解、「775249」の意味を悟る(答えを言いたそうな長門)。
 つまり3つの素数は61と71と179で、体重61kg、ウエスト71cm、身長179cmを示唆。

 ※ユニクロのMENのXSでさえ66~72cmなので、ウエスト61cm(体重71kg)はあり得ない。
  https://faq.uniqlo.com/articles/FAQ/100001976
  一方で体重61kg、身長179cmはBMI19程度なので、あり得る。

・数日後(冬休みの終わり)。キョンの妹が彼に古泉からの手紙を渡す(猫のシャミセン)。
 中身は2枚の写真。1枚目は袴姿のキョンと古泉、振り袖姿のハルヒ長門・朝比奈。
 キョンが「みんなの着物姿、か……」と言い、ハルヒが鶴屋の要望に応えたことに気づく。
 (貸衣装店、古風な写真屋
 ↓
 2枚目は古泉が隠し撮りしたハルヒを背負うキョン。これが古泉なりの「775249」の景品か。

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「七不思議オーバータイム」(初出は『ザ・スニーカーLEGEND』)

・5月。放課後の文芸部室でキョンが古泉とカルタ(百人一首)を楽しむ。詠み手は朝比奈。
 (読書中の長門 / 「わびぬれば~」、「あきのたの~」→庵(いお)や苫(とま))
 初めて古泉にゲームで負けそうになるが、無教養なので、やめる。
 (「ひさかたの~」、藤原定家 / 筒井康隆の『バブリング創世記』、「裏小倉」)
 ↓
 古泉の提案で今度は運ゲーである坊主めくりを楽しむ(姫カード、太字で「春過ぎて~」)。
 ハルヒは「先に行ってて!」と言い、どこかへ。

 ※太字で「春過ぎて~」→春から夏へ

・女生徒が大量の本や資料を両手に抱えながら、靴先でドアをノックし、部室内へ。
 そして不在のハルヒを「ハル」と呼び、メイド姿の朝比奈を不思議の一つと見なす(初対面)。
 さらに同級生のキョンをキャムと呼ぶ。彼女いわく、キョンは呼びにくいニックネーム。

 彼女の情報は、外国人、2年5組、ミステリ研究部所属(新学期のクラスでの自己紹介より)。

 本は『古今怪談集』、『古今著聞集(ちょもんじゅう)』(後述)、『学校の怪談』(児童書)。

 ※喜緑→3巻『退屈』の「ミステリックサイン
  阪中→8巻『憤慨』の「ワンダリング・シャドウ
  生徒会長→8巻『憤慨』の「編集長★一直線!」
  2年5組、新学期のクラスでの自己紹介→9巻『分裂』のプロローグ

 ↓
 女生徒いわく、昼休みにトイレの前でハルヒに学校の七不思議を知っているか訊かれた。
 (ハルヒの声を真似る)

 そしてミステリ研の部長センパイに(事件らしい事件や)七不思議の有無を尋ね、否定された。
 その件をハルヒに伝えると、彼女は「あっそ」とだけ答えて、そっぽを向いた。

 その後、ミステリ研のセンパイ達に怪談の本や資料を「持って行け」と言われたので、ここに来た。
 (女生徒に注目する古泉と長門 / 「国木田や谷口」)

 キョンが女生徒をファーストネームの愛称で呼ぶことを拒む。
 女生徒の情報は、今年度から転入してきた生徒、長い苗字。

 ※ミステリ研が事件らしい事件にまったく遭遇していないことに憤るハルヒ→1巻『憂鬱』の第一章
  「合宿先の島が嵐に見舞われた」→3巻『退屈』の「孤島症候群
  「スキー場のペンションが雪で閉ざされた」→5巻『暴走』の「雪山症候群

 ↓
 女生徒が幻想的な文を書ける文芸部の部長、長門にミステリ研の会誌への寄稿を依頼。
 彼女いわく、これはミステリ研のセンパイ達の依頼でもある。
 部長も部長会議で依頼したが、無視された。会誌は文化祭で発行する予定。

 長門が珍しく『イメージ・シンボル事典』という本を閉じて来客に反応し、静かに肯定。
 古泉がいつもとは違う長門に注目(アンドロメダ銀河内のこと座RR型変光星)。

 ※文芸部の会誌→8巻『憤慨』の「編集長★一直線!」

 ↓
 女生徒が本棚にあるViking Press版ハードカバーの
 Thomas Pynchon 『Gravity's Rainbow』(73年初版)を借りる。
 そして長門の手をぶんぶん振ることで深い感謝を示し、去る。(女生徒の挿絵、金髪)

キョンが怪談資料をハルヒが来る前にどこに隠すか悩む。
 彼いわく、女生徒は交換留学生。
 古泉が願望現実化能力を有するハルヒによる学校の七不思議の現実化を懸念。

・4人の会議。ハルヒが作りそうな七不思議(怪奇現象)を未然に防ぐ対策を考える。
 古泉が世界観の変転を起こさない理屈を用意すればよいと考え、例を2つ挙げる。
 (彼いわく、ホラーとミステリは表裏一体で、ディクスン・カーが有名)

 ※映画撮影、秋の桜、絶滅したはずのリョコウバト→2巻『溜息』の第五章

 ↓
 1例目は、鎌倉時代に橘成季(たちばなのなりすえ)によって編纂された説話集、『古今著聞集』
 の『仁和(にんな)三年八月、武徳殿の東の松原に変化(へんげ)の者出づる事』。
 平安時代の京都で猟奇的な殺人事件が発生し、その犯人が鬼だった、という話。
 古文で習う『今昔物語集』にも採用されている有名な話。

 経緯は、887年9月上旬の夜、男が3人の女官(にょかん)のうち1人を誘い、声が途絶える
 →不審に思った女官2人が暗がりを覗き込み、女の手足を発見(頭と胴体なし、バラバラ殺人)
 →慌てて衛士(えじ)に報告→鬼の仕業と推測される。

 結論は2つ。1つは本当に鬼が犯人。もう1つは人間(猟奇殺人犯か女官2人)が犯人。
 後者の結論なら、鬼の存在を否定できるので、現実的。

 ↓
 2例目は、『承安(じょうあん)元年七月、伊豆国奥島に鬼の船着く事』。

 経緯は、1171年8月、伊豆のある島に船が漂着→喋らない鬼達が上陸し、酒を飲む
 →鬼達が島民を襲う→島民が弓矢で応戦→鬼達が船で逃げ去る
 →鬼が落とした帯が蓮華(れんげ)王院、三十三間堂(げんどう)の宝物庫に収められる。

 九条兼実(かねざね)が日記に残している話なので、おそらく史実。
 兼実は鬼を「蛮夷(ばんい)」と述べ、異国の民と推測している。

 これは鬼ではなく、外国人によるものと解釈すれば不思議ではない。
 『変化(へんげ)』第27篇冒頭にも、鬼などのバケモノの存在を疑う文がある(千変万化)。

 ↓
 つまり古泉はハルヒがどんな七不思議を作り出そうと、見間違いと決めつければよいと考えている。
 だが、それでハルヒが納得するとは思えないキョン
 あらかじめ自分達で七不思議を作ってしまうことを提案。北高七不思議案策定会議を始める。

 なお、古泉いわく、『機関』はハルヒの現在地を把握している(×GPSトレーサー)。
 足止めもできる。組織の外部協力者は生徒会長だけではない。

・4人の会議。朝比奈の疑問から世界の七不思議への飛躍を懸念するが、
 とりあえず、学校の七不思議(怪談)の考案に集中。
 その際、女生徒が持ってきた学校の怪談の資料が役に立つ。
 (ハルヒの後ろ姿と4人の挿絵 / 古泉が挙げた2例目は鬼ヶ島?)

 ※ロードスの巨人像、バビロンの空中庭園、ギザのピラミッド→世界の七不思議

 ↓
 1つ目は歩き読書で有名な、二宮金次郎像の怪。
 北高にはない像だが、ハルヒの能力で出現する可能性があるので、
 キョンが空を飛ぶ像を想像するが、ありきたりなので少しひねる。

 結局、朝比奈の愚案から、ある満月の夜の丑三つ時(うしみつどき)、
 青銅(ブロンズ)製の銅像を構成する成分が銅85%、錫(すず)5%、亜鉛5%、鉛5%から
 銅85%、錫5%、亜鉛5%、鉛4%、オリハルコン(存在しない金属)1%に変化する、という話に。

・2つ目は音楽室の謎。ある新月の夜の丑三つ時、
 無人の音楽室のピアノがジョン・ケージの『4分33秒』(無音の曲)を奏でる。
 (シューベルトの『魔王』かモーツァルトの『レクイエム』)
 朝比奈いわく、幽霊の存在はどちらでもよい、禁則事項

 3つ目は階段の秘密。ある弦月の夜の丑三つ時、南校舎の屋上に通じる階段が一段増える。
 その段を踏んだ者は右足親指の深爪にしばらく悩まされる。
 そしてすべての教室にエアコンが取り付けられる。(エスカレータ)

 4つ目は渡り廊下の反転鏡(中校舎と体育館の間)。ある上弦の月の日の丑三つ時、
 渡り廊下の姿見に全身を映すと、身体のアミノ酸の分子構造が反転する。(ドッペルゲンガー

 ※長門「L型からD型」「光学異性体」「ジャム」→『戦闘妖精・雪風

・5つ目はとあるトイレの開かずの扉。ある十六夜(いざよい)の丑三つ時、
 その扉を開いた者は2か月間、異世界に飛ばされる。戻って来た時には異世界での記憶を失っている。
 そして現実世界は1時間しか経過していない。続編可。

 ※Cワープ→『銀河鉄道999』?

・6つ目は移動する人体模型の恐怖。ミステリ研のレポートより。
 オカルトではなく、トリックがある問題。詳細は以下。

 ↓
 朝、家庭科部から分派してできたスウィーツ同好会の女生徒がババロアを作るために
 家庭科室に行き、人体模型に遭遇。教師に報告するが、人体模型は生物室の元の場所へ。
 調理台に3枚に下ろされた魚、鰺(あじ)が残されていた。

 2週間後の朝、女子バスケ部員が体育館へ。用具倉庫で人体模型に遭遇し、教師に報告。
 こちらの人体模型は消えなかった(生物室に人体模型はなかった)。

 放課後、新聞部員が向かいの校舎の教室で動く人体模型を目撃。
 携帯でそれを撮影し(写真あり)、教師に報告。人体模型は生物室の元の場所へ。

 ↓
 キョンが部屋の鍵や教師の詳細がない点、日付がない点、ハルヒが本件に勘づかなかった点から、
 ミステリ研によるハルヒ宛てのクイズ(架空の事件)と推理。

 彼いわく、人体模型は2体。動機は家庭科部の仲間割れで、鰺は警告。
 3つ目の事件はオカルト性を強調するための念押し。

 あとはハルヒのトンチに期待することに。

 ウトウトするメイド姿の朝比奈、本(児童向け怪談シリーズ)を読む長門
 キョンの独白「二人なりの退屈を示す意思表示なのかもしれない。」。

 ※伝書鳩→部室に来たミステリ研の交換留学生

・7つ目は誰も知らないし、知ってはいけない、ということに(ラッセルのパラドックス)。
 古泉いわく、ハルヒが無から有を生み出すより、有るものを知ろうとする方が無難。
 また、ハルヒにも想像の余地を残しておくべき。
 ↓
 長門が高速タイピングで七不思議案の報告書(コピー用紙)を作る。

ハルヒが来て、学校の七不思議を作ろうとする。キョンが彼女に例のコピー用紙を見せる。
 ハルヒがミステリ研の女生徒の関与を悟り、団員の成長を喜ぶ。そして4人の七不思議案を批評。

 ハルヒは校長室で校長と将棋をして、入玉していた。つまり生徒会長以外の外部協力者は校長。

ハルヒが8つ目の不思議を考え始める(ハルヒの挿絵)。
 勝手に5人目の四天王を考案。
 (持国天増長天広目天多聞天毘沙門天) / 帝釈天(たいしゃくてん))
 ↓
 キョンが古泉にハルヒとミステリ研の彼女を愛称で呼ばない自身の心理を指摘される。
 (ハルヒを愛称で呼んでいないのに、他の女性を愛称で呼ぶわけにはいかない、という男心)
 そしてハルヒを「ハル」と呼んでいるところを想像してしまい、具合が悪くなる。
 ↓
 古泉が5つ目の七不思議案、異世界ものの推敲を始める。
 (朝比奈の梅昆布茶 / ハルヒの面白いニックネーム)
 ↓
 キョンハルヒにミステリ研が長門に文章寄稿を依頼した件を話し始める。
 (太字で「恋すてふ~」「世の中は~」)

 ※「恋すてふ~」→知られたくなかった噂、キョンハルヒへの恋心を示唆
  「世の中は~」→今の状況が変わらないことを望む心理

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鶴屋さんの挑戦」(書き下ろし)

・古泉、部外者のT(ハニーブロンドのミステリ研女子)、長門の話。
 序盤は好きな推理小説、中盤は古泉の『読者への挑戦』論、終盤は各自の考え。
 (ヨードチンキの瓶、バールストンギャンビット、Yのマンドリン、アクロイドのアレ)

 ※「レッドヘリング」→読者の注意を真犯人からそらす偽の手がかり→ミスディレクション
  (燻製ニシンの臭いで猟犬の注意がそらされることから)

 ↓
 最も好きなジョン・ディクスン・カーの作品。
 『三つの棺』、『ユダの窓』、『プレーグ・コートの殺人』以外で。
 Tは『The Emperor's Snuff-Box(皇帝のかぎ煙草入れ)』、
 古泉は『火刑法廷』、長門は『緑のカプセルの謎』。

 Tはいつもとは違い、ヘアピンで前髪を留めている(伏線)。

 最も好きなアントニー・バークリーの作品。3人とも『毒入りチョコレート事件』。
 古泉は『最上階の殺人』と『第二の銃声』、
 Tは『Trial and Error』と『ウィッチフォード毒殺事件』。

 最も好きなエラリー・クイーンの作品。『X』や『Yの悲劇』以外の国名シリーズで。
 Tは『エジプト十字架の謎』、古泉は『シャム双子の謎』、長門は『ギリシャ棺』。
 (T・古泉・長門の挿絵 / 『オランダ靴』、『チャイナ橙』)

 ↓
 古泉がTに『シャム双子』だけ『読者への挑戦』がない点(ロジックの欠点)を指摘されるが、
 北村薫の『ニッポン硬貨の謎 エラリー・クイーン最後の事件』を引用し、
 犯人特定プロセスの効果を最大限に発揮するためには『読者への挑戦』は不要と説く。

 さらに『シャム双子』が国名シリーズで唯一のクローズドサークルものである点も強調。
 登場人物(容疑者)が限定されれば簡単な問題になるので、『読者への挑戦』は不要。

 ↓
 古泉いわく、『読者への挑戦』はTが言うような意地悪ではなく、
 容疑者をこれまでの登場人物だけに限定する親切心(フェアプレイの精神)。

 エラリー・クイーンの評論家、法月綸太郎(のりづきりんたろう)が
 『法月綸太郎ミステリー塾 海外編 複雑な殺人芸術』収録の『初期クイーン論』で提唱した、
 作中の探偵の推理が唯一の解かは作中で証明できないという後期クイーン問題への対策。

 法月いわく、『読者への挑戦』には当て推量(あてずっぽう)を禁止し、
 論理的な説明を求める機能がある。
 これによってはじめて閉じた形式体系、自己完結的な謎解きゲーム空間が成立する。

 氷川透(とおる)の『最後から二番めの真実』によると、『読者への挑戦』は
 江戸川乱歩が言った騎士道精神ではなく、論理的な要請から生まれたもの。
 恣意性を禁止する装置。自分は自分にそれを禁止したぞと宣言する装置。

 氷川いわく、ある手がかりから犯人をAと推理しても、真犯人Bによる偽の手がかりかもしれない。
 これを否定する手段は作品外にしかない。
 作品内において論理的に唯一ありうる犯人は論理的にありえない。

 ↓
 以下は後期クイーン問題に対する様々な考え方。

 有栖川有栖(ありす)の『江神二郎の洞察』の『除夜を歩く』によると、
 (偽の手がかりによる)完璧な推理の不可能性は現実の世界にもある問題なので、
 ミステリでそこまで深く意識する必要はない。

 石崎幸二の『記録の中の殺人』における犯人のプロファイリングの話も似たような解釈で、
 ここでは後期クイーン問題ゲーデル問題と呼んでいる。

 二階堂黎人(れいと)の『論理(ロジック)の聖剣(エクスカリバー)』によると、
 後期クイーン問題は作家の言い訳に過ぎず、探偵は推理という思索行動を発動させるための
 ジャンル的装置なので、この問題はこの世に存在しない。

 深水黎一郎(ふかみれいいちろう)の『大癋見(おおべしみ)警部の事件簿』
 のchapter 7『テトロドトキシン連続毒殺事件』における刑事は
 後期クイーン問題に陥らないよう努力する。この刑事は自分が小説世界の人物
 であることを知っているので、メタレベルを無視した発言が可能。

 ※「ゲーデル問題」→元ネタは数学的な命題、ゲーデル不完全性定理

 ↓
 古泉にとっての本格ミステリの条件は『読者への挑戦』があり、
 作者と同名の登場人物がいる、ゴリゴリのパズラー。
 その方が興醒めすることなく現実と物語を行き来できる。
 (クイーンパターンとヴァン・ダインパターン、『中途の家』)

 長門にとっての本格ミステリの条件は「アンフェアでない」。
 Tいわく、「アンフェアでない」は「フェアである」とは違う。
 つまり嘘がなければよい。あったとしても嘘と解る場合は問題ない。

 Tは厳密な古泉とは違い、『読者への挑戦』の有無にこだわらない。
 また、一人称と三人称は究極的には同じものであると柔軟に考える。

 ↓
 キョンがクアルトというボードゲーム(4×4、木製駒)でメイド姿の朝比奈に勝つ。

・そろそろ梅雨。春と夏の端境期。(『ごきぶりポーカー』、嘘をつけない朝比奈、ハエ)

ハルヒが来る(美化委員長の話が長く、45分もかかったので、居眠りしていた)。
 ↓
 SOS団のアドレスに鶴屋からの添付ファイル付きのメール、SOS団への挑戦状が来る。
 キョンの独白は「鶴屋さんが送ってきたのは、よりにもよってSOS団への挑戦状だったのだ。」。
 朝比奈いわく、鶴屋は旅行(家事)のために数日前から学校を休んでいる。
 (『メ~ルで~す~』という朝比奈の声)

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・鶴屋からのメール1。親父(おや)っさんとドサ回り中。暇で死ぬ。
 面白い事件に遭遇したので、トラベルエピソードもまじえて、報告する。
 最後の方で問題を出すから解答をお願い。
 (鶴屋の声を器用に真似ながら音読(朗読)するハルヒ

~添付ファイル1(エピソード1)~

 夜景ならともかく、まだ太陽ががんばっている時間。
 あるホテルのパーティ会場でドレス姿のあたしが自身と似たような境遇である女子と仲良くなり、
 テニスコートであえてドレスを着たまま彼女とテニスを楽しむ。
 (付き人(女)、フロントのコンシェルジュ
 ↓
 2人でシャワーを浴び、あえてテニスウェアを着る。
 あたしが彼女のドレスの発信機入りボタンを外す(×盗聴器 ○GPSトレーサー)。
 2人とも発信機を仕掛けられる境遇。
 あたしの場合、発信機を見つけては捨てていた。最後の方は親父っさんとの知恵比べだった。
 ↓
 あたしがそれをおっちゃんのポケットに入れ、部屋へ。
 2人でグレープフルーツジュースを一気飲みして、様々なことを話す。
 その後、ベッドの下に隠れる(相手の盲点をつく原始的な手段)。
 途中で寝てしまう。起きたらベッドの上。彼女の姿はない。

 ※鶴屋「盗まれた手紙作戦」→エドガー・アラン・ポー推理小説
  →隠したいものをあえて隠さないことで相手の盲点をつく作戦

ハルヒがエピソード1を何らかの「叙述トリック」と推理。
 (鶴屋のことを知っている交換留学生のT / キャム、キャミィ
 古泉いわく、叙述トリックは『日本書記』の神功(じんぐう)皇后の項目でも使われている?
 (中国の『魏志倭人伝』)
 ↓
 ハルヒが『あたし』は鶴屋ではなく、『彼女』こそが鶴屋、と推理する。
 だがキョンいわく、第一に『彼女』は大人しい。
 第二に『彼女』はセリフが少なく、お淑やかである。いずれも鶴屋らしくない。
 第三に鶴屋のようなテンションで話す『あたし』が他にいるとは思えない(最大の理由)。
 ↓
 ハルヒが『あたし』も『彼女』も鶴屋ではない、と言い出す。
 キョンがそもそも何が問題なのか悩む。長門いわく、「まだ、何も」(情報不足)。
 (長門の本、「やたら黄色っぽいページの長方形の本」)
 ↓
 Tの前髪が揺れる。彼女のヘアピンは髪留めとして機能していない?(伏線)
 ↓
 古泉が一人称の語り手が別人であるというハルヒの説をやんわりと否定し、
 「トラベルエピソードもまじえて」から、本件をただのエピソードと推測。
 つまり肝心の問題文はまだ送られていない。
 ↓
 古泉(とハルヒ)が2人の行動が幼い点を指摘し、過去(小学生の頃)の話であると推理。
 2人はベッドの下に隠れ、ドレスでテニスをして、GPSトレーサーを無断で仕込まれている。
 つまり叙述トリックの対象は人物ではなく時制。(押し入れで猫のシャミセンと寝るキョンの妹

 ※シリウスカノープスアークトゥルス→太陽に次ぐ明るい恒星
  キョンの恋愛小説モドキ→8巻『憤慨』の「編集長★一直線!」
  SOS団名誉顧問、鶴屋→5巻『暴走』の「雪山症候群

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・鶴屋からのメール2。エピソード1は7年前の話(キョンの妹は小6)。
 あれ以来、彼女と親しくなった。エピソード2は去年の秋頃に温泉地でその彼女と経験したこと。

~添付ファイル2(エピソード2)~

 温泉の露天風呂。傍に例の彼女。
 ↓
 回想。あたしと彼女がやったリアル隠れんぼ(大人たちから姿をくらますゲーム)。
 いつも彼女は極小の発信機(GPSトレーサー)を身体のどこかに仕掛けられた。
 2人で真っ裸に靴だけという格好でうろつくことで靴の中に発信機があることに気づき、
 それを電子レンジで壊したこともあった。
 ↓
 回想の続き。発信機を他人に押しつける作戦が通用しなくなっていたので、
 2人であえて発信機を付けたまま外出し、車をヒッチハイクしたこともあった。
 (盗まれた手紙作戦第二弾 / ヘリコプター)
 ↓
 部活の話。あたしは無所属。自由に憧れる彼女は父の強制で古典詩の朗読サークルに所属。
 (×李白(りはく)、一休宗純(そうじゅん) ○ゲーテボードレール、ブロンテ)
 ↓
 プロポーションのよい付き人が彼女に風呂から出るよう促し、素早く脱衣所へ。
 (ギリシャのオリンポス、神代(かみよ))
 ↓
 ハイヤーに乗る。人物はあたし、彼女、付き人、運転手。
 彼女いわく、夜の懇親会にはまだ時間の余裕がある。
 付き人いわく、ホテルから馬車で半日はかかる距離。
 ↓
 仮装行列(魔女やヨーロッパの田舎娘)を見かけたあたしと彼女が車を降り、
 付き人の忠告を無視して、秋祭り、葡萄(ぶどう)踏み娘ペア・コンテストに参加。
 (×ハロウィンやサバト / ワイン)
 ↓
 公民館で着替え、互いの田舎娘コスを褒め合う。「まるで印象派~お嬢様」というセリフ。
 裸足でタライに足を踏み入れ、音楽に合わせて葡萄を踏み潰す。
 (受付、衣装係のおばちゃん / チロリアンダンス、みくる / 嘆く付き人 / シャーマニズム
 ↓
 コンテストの審査を辞退し、裏口から出る。
 ハイヤーを探すのに少し苦労し、居眠りしていた運転手を起こす。
 その車で駅へ。列車に乗り、遥か彼方にある街へ。

 ※『死せる詩人の会』→『いまを生きる』、Dead Poets Society
  「後輩の女の子と男の子」→ハルヒキョン
  ルノアールとニコラス・オットー→内燃機関(エンジン)の発明者
  ディオニュソスギリシャ神話に登場するブドウ酒の神

・古泉がエピソード2も「面白い事件」ではなく、エピソード3が来ると予想。
 キョンハルヒの命令でエピソード2を印刷。
 ハルヒがそれに現国の試験のようにボールペンでチェックマークを入れる。
 彼女いわく、鶴屋のトリックの片棒を担いでしまった。(ハルヒの挿絵)

 ↓
 朝比奈がなぜ2人は夜の懇親会を無視して列車に乗ったのか疑問に思う。
 ハルヒが朝比奈の純粋な疑問を褒める。

 古泉いわく、馬車で半日かかる距離は、時速10kmと仮定すると120km。
 時速60kmの車なら2時間ですむ。ハルヒいわく、これは最後の「遥か彼方にある街」と矛盾。
 つまり列車に乗ったのは鶴屋と『彼女』だけで、2人は途中で付き人を撒いた。

 ↓
 ハルヒいわく、カギ括弧付きのセリフのいくつかは付き人のセリフではなく、鶴屋のセリフ。
 にもかかわらず、彼らの声を真似て音読していたので、鶴屋のトリックの片棒を担いでしまった。
 自分でミスディレクションを作ってしまった。
 (長門の本、「やたら縦長の黄色っぽい本」 / 日本語の難しさを呪うT)

 ↓
 キョンが最後の「付き人さんがこの状況で言ったら皮肉に聞こえるセリフだね」を挙げるが、
 古泉と英訳したTいわく、その文章は仮定法(過去完了)なので、
 「If the attendant had said it in this situation, it would have sounded sarcastic.
 (もし付き人がこの状況で言ったのだとしたら、それは皮肉に聞こえただろう。)」と書き直せる。

 長門が「アンフェアとは言えない」と言ったので、
 Tが「アウトに近い」という意見を「セーフに近い」に訂正。
 (長門の本、「ギリシャの哲学者が楽器を演奏してそうなタイトルのペーパーブック」)

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 古泉がキョンの3つの疑問をまとめ、ハルヒと検証していく。
 1.いったいどこから鶴屋のセリフなのか
 2.なぜ付き人のような口調なのか
 3.なぜその部分だけカギ括弧付きなのか

 1の答えは誰が話したのか確定できない「まるで印象派~お嬢様」というセリフから。
 つまり2人が着替えるために公民館に入ってから。
 「お嬢様」という言い方は付き人のセリフと思わせるミスディレクション

 キョンがなぜ付き人は公民館に入らなかったのか悩む(第4の疑問)が、後回しにされる。

 古泉いわく、2人が付き人を撒いたのは公民館に入って裏口から出た時。最後のハイヤーは別の車。
 実際、車を探すのに苦労しているし、運転手が居眠りするのは無作法なので不自然。

 2の答えは、実際には丁寧語で話していた(古泉説)か、単にふざけていた(ハルヒ説)。
 長門が「問題ない」と言う。Tも同調。キョンだけがモヤモヤ感を抱く(伏線)。

 3の答えは、どう書こうが鶴屋の自由(ハルヒ説)。我々向けのミスディレクション(古泉説)。
 古泉いわく、叙述トリックは作者が読者を騙す手法であり、極論、ルールなどない。
 個人的には読者への挑戦がある話を好むが、一般論ではない。
 長門も「必ずしも問題があるとは言えない」と言う。Tも同調。

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 キョンの第4の疑問に対する答えは付き人が男だったから。
 男である付き人は鶴屋と『彼女』が着替えていたので公民館に入れなかった。

 ハルヒが女声で音読したことを反省し、キョンにエピソード1の印刷を命じる。
 古泉いわく、鶴屋はすぐに音読するハルヒのせっかちな性格に賭けた。
 そしてエピソード1の付き人(女)は目眩まし。

 キョンが3人で露天風呂に入っていたことを指摘するが、
 ハルヒいわく、水着を着て入る野外スパなら混浴でも問題ない。

 古泉とハルヒの推理。付き人が「素早く脱衣所」に行ったのは、
 男子更衣室で着替えて、女子更衣室の前で待つ必要があったから。
 そして「プロポーション」は格闘家やボディビルダーのような筋肉を示唆。

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 古泉による総括。エピソード2の叙述トリックは2つ。
 1つは3人いると見せかけて2人しかいない(二人三役)という人数誤認トリック。
 もう1つはそこから浮上する性別(男女)誤認トリック。

 長門がTを見つめ、あいまいな表現をするが、ハルヒに「間違っていない」と言う。
 キョンがモヤモヤ感を抱く(伏線)。朝比奈が皆に小倉羊羹を配る。

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・鶴屋からのメール3。2人の身体には肉眼では見えない最新式発信機が付いていたため、
 エピソード2の逃避行はあっさり終わった。
 未だにどこに付いていたのか解らない。詳しく書きたいが超のつく機密事項。
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 今回の添付ファイル(エピソード3)が最後。これこそが最近の面白い事件。

~添付ファイル3(エピソード3)~

 鶴屋の視点。「ここはどこなんだろうねえ」から始まる。今回は前回のような小細工はなし。
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 発信機(GPSトレーサー)を小型化する研究過程で思わぬ副産物が発明されたらしいので、
 そのプロジェクトの発表記念パーティへ(瓢箪(ひょうたん)から駒)。
 内容は「遺伝子をプロセッサ代わりにして色々計算させよう」とかDNAコンピュータとか。
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 タクシーで北へ。周りは建物ばかりで、風光明媚(めいび)ではない。
 通り過ぎて行く対向車を見る。その向こうに夕日。(枕草子改訂版)
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 高級ホテルで彼女に会い、グレープフルーツジュースを飲む。
 自身と彼女の共通の知人は不在。
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 発表会~乾杯~名刺交換会。名刺を渡す度に笑いを取る男、名刺ジョークを見かける。
 彼女いわく、彼は遠縁にあたる人。父方の祖父の兄弟筋の家系。
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 長身の若いドクターが名刺ジョークと談笑し、巧みな話術で彼女を口説く。
 彼は遺伝子の研究者で、彼女の花婿候補。彼女の名前は「ショウコ」。
 途中で彼の同僚が来て、彼と立ち去る。(ツン・ビフォア・デレの彼女)
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 彼女と少し話す(笑えるみくるネタ)。悲鳴が聞こえたので、彼女のもとを離れ、控え室へ。
 そこで頭から出血して倒れているドクターを発見。
 ドクターが救急箱を見て、「飲むな」「飲んではいけない」と言い、気絶(死んではいない)。
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 問題。犯人の名前を当てて。頃合いを見て、ヒントを送るよ。

ハルヒが印刷したエピソード3を現国の授業のように音読(朗読)。
 朝比奈がその中のある言葉に注目(後述)。
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 長門(とキョン)が自称・読み専のTに小細工、風光明媚、瓢箪から駒という日本語を教える。
 (木工職人、前漢の洛陽(らくよう)、『資治通鑑(しじつがん)』、×将棋 ○馬)
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 主要人物がドクターと名刺ジョークだけなので、キョンが犯人は名刺ジョークと推理。
 古泉が「メタフィクション的アプローチからの逆算は、本来、邪道」と言う。
 だがSOS団も人のことを言えない非合理的組織。また、鶴屋の挑戦状も正統的な謎解きではない。
 というわけで、犯人の名前当てに集中。
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 古泉とハルヒいわく、鍵はダイイングメッセージ(死んだふりなのでフェインティングメッセージ?)
 と思しき「飲むな」「飲んではいけない」と、『彼女』であるショウコ(初の人物の固有名詞)。
 名刺ジョークとショウコは、祖先が父系で繋がるので、おそらく同じ苗字。
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 いつも鋭いハルヒがなぜエピソード3で『彼女』の名前が明かされたのか珍しく悩む。
 キョンが最後の「ヒントを送るよ」から、ノーヒントでは特定不能と判断。
 ハルヒが最初のヒントはショウコの漢字と予想。
 古泉が笑いを取れる名刺と救急箱に着目。
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 まとめると、名刺ジョークの名前は、1.笑えるもので、
 2.飲めないものとして知られている何かの名称で、3.救急箱に入っているもの。

 ※ドルリー・レーン→エラリー・クイーンの小説の探偵

・鶴屋からのメール4。4つのヒントを提示。
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 1.辞典やネットで調べてもよい
 2.救急箱に入っている物の名前ではない
 3.彼女の家では代々、名前に『尚』の字が入る、
 4.犯人の名前は一部カタカナでもよい。
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 3よりショウコは尚子(仮に尚一なら、「ショウ」イチか「ナオ」カズ)。
 4より漢字そのものよりも読み方が重要。
 1より専門的な事典は不要。一般的な辞典で解ける。
 (事典は事物を詳述した百科事典などで、辞典は言葉の意味を記した英和辞典など)
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 唯一の否定形である2は大ヒント。物ではないので、そもそも名詞ではないということ。
 (尚早、ナオハヤ? / ×アスピリンアセトアミノフェン
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 キョンの回想。幼少期に救急箱の中にあったアンモニアの瓶の臭いを直接嗅いでしまい、
 注意書きの重要性を痛感する。
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 キョンの話のおかげで、ハルヒと古泉が名前を特定。鍵は「飲むな」という注意書き。

・鶴屋からのメール5。5つ目のヒントは、ここはどこか。
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 古泉いわく、北へ向かうタクシー、西に沈む夕日より、鶴屋はタクシー内で左側を見た。
 その時に通り過ぎて行く対向車を見たということは、右側通行の国にいたということ。
 つまりエピソード3の舞台は左側通行の日本ではなく、外国。

 ※泰水(やすみ)→9巻『分裂』~11巻『驚愕』でハルヒが無意識に生み出したもう1人の自分

キョンに英和辞典を突き付けたハルヒが舞台をアメリカと断定。古泉も同調。
 いわく、英語なら、ダイイングメッセージの「飲むな」が成立する。
 キョンが古泉に「解答からの逆算は邪道じゃなかったのか?」と言うが、
 「時には解釈に柔軟性を」と言われる。
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 古泉がホワイトボードを使って解説(ハルヒのヒントは石川県)。
 「飲むな」→服用禁止→Not to be taken→Not-to-be taken-ao
 →Notobe Takenao→能登部タケ尚(ヒント4より一部カタカナでも可)。
 (『読者への挑戦』、噴き出す英語圏のT)
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 古泉いわく、ヒントを「服用禁止」にすると、「とある理由で」簡単すぎる(後述)。
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 古泉とハルヒいわく、動機は決定できないのでどうでもよい(明智光秀織田信長、本能寺)。
 まとめると、エピソード3の叙述トリックは、
 日本語を話していると見せかけて実は英語を話していた、という言語誤認トリック。
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 タイミングや都合がよすぎる連想ゲームのような事件なので、キョンが実話なのか疑うが、
 古泉が誕生日のパラドックスやモンティ・ホール問題を挙げることで、
 我々の体感と実際の確率の差を語る。(『彼女』は能登部尚子)
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 それでも、今までメールが来るタイミングがよすぎた点と、
 今回の答え合わせのメールだけ遅い点から、キョンが違和感を抱く。
 長門キョンを凝視。そしてTに近づき、Tも凝視。(ルーブルのニケ / 長門の挿絵)
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 名無しの『彼女』、英語圏などからすべてを悟ったキョン
 Tの前髪のヘアピンに向かって大声で叫び、鶴屋に話しかける。(驚く朝比奈)

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・Tの携帯から鶴屋の声が響く。キョンが最初に気づいたので、鶴屋が驚く。
 ハルヒと古泉もからくりに気づく(うろたえる朝比奈)。

 キョンいわく、エピソード1と2の『彼女』は尚子ではなくTで、ヘアピンは盗聴器。
 根拠は部外者であるミステリ研のTの存在と、メールが来るタイミングのよさ。
 鶴屋に言わせれば、ヘアピンは高性能集音マイク・プラス・電波送信機で、
 その伝達の順番は、超小型ピンマイク→Tの携帯→鶴屋の携帯。

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 キョンいわく、エピソード2における鶴屋のカギ括弧付きのセリフに違和感があったが、
 エピソード3のような外国の話であると考えれば、納得できる。

 古泉いわく、モノローグと実際の口調は違うという自説とふざけていたというハルヒ説は
 どちらも間違いで、これらのセリフは外国語(英語)で話されていた。
 Tいわく、鶴屋の英語は丁寧で文法が硬い。だが発音は少し母音過多。

 鶴屋いわく、エピソード2の舞台はヨーロッパのどこか。
 古泉がヨーロッパの田舎娘の描写を指摘。キョンの予想ではドイツとフランスの間。

 古泉いわく、エピソード1も海外。緯度の高い国。
 ハルヒいわく、「夜景ならともかく、まだ太陽ががんばっている時間」のパーティなので、
 夜が短い国であると推理できる。
 古泉いわく、ベッドの下で鶴屋が寝てしまったのは日本との時差のせい。

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 古泉いわく、全エピソードの『彼女』が尚子なら、名前を隠す必要がない。
 むしろ日本人の名前を出した方が国外であることを隠せる。
 鶴屋からのメール2よりエピソード1と2の『彼女』は同一人物。
 エピソード3より、共通の知人は不在。

 まとめると、エピソード1と2の舞台は外国で、鶴屋と親しい『彼女』は外国人。
 そしてエピソード1と2の『彼女』は尚子ではない。
 ゆえに我々が知り得る範囲内でこれらの条件を満たす人物は留学生であるTのみ。

 キョンが古泉に「メタ的視点からの逆算推理は邪道」と言うが、
 古泉いわく、そもそもの問題文がメタテクストの要素を内包しており、
 解答者である自分達がテキストの内と外の両側からの視点を持ち得る場合、
 この推理はむしろ王道たる論理的帰結である。

 キョンにとってのヒントは、長門がTのヘアピンに興味を示したこと(大ヒント)、
 エピソード2の会話文に対する違和感、メールが来るタイミングのよさ。

 古泉が前に話した不特定多数の容疑者を限定してくれる『読者への挑戦』論について語る。
 彼いわく、5つもヒントを提示してくれた鶴屋の親切心を考えれば、
 『彼女』は既知の誰かであると素直に考えてよいので、該当者はTのみである。

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 最初から解答が目の前にあったという皮肉の効いたミスディレクションに感心する古泉。
 盗まれた手紙作戦と評すハルヒ

 古泉いわく、鶴屋の挑戦状には『彼女』は誰かを当てろ、という裏テーマがあった。
 鶴屋いわく、その裏テーマを見逃されたら、自分からバラすつもりだった。
 なかなかメールを送らなかったのは、誰かが気づくのを待っていたから。

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 ハルヒにどの程度の共犯なのか問われたTが鶴屋の許可を得て、
 携帯で7年前(小学生)の鶴屋と自身のスナップショット(写真)を見せる。

 Tがミステリ研に所属しておきながら推理しなかったのは、主催者の仲間だったから。
 日本語の叙述トリックを説明できないという事情もあった。

 Tいわく、尚子(ショウコ)は昔、鶴屋の紹介で知り合った美人で、
 来年には大学を卒業する(20歳は越えている)。我ら3人は同じファミリー内ポジションにいる。
 ミスタードクターは自身の長兄で、研究に没頭している。

 鶴屋いわく、尚子の遠縁である名刺ジョークの名前の漢字は「武」。
 先祖が武家や公卿で、代々の通字(とおりじ)が「尚」。

 ※「まだミランダが~」→ミランダ警告、黙秘権

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 鶴屋が「あたしに言っとくことないかな?」と言い(伏線)、電話を切る。

・朝比奈がTとキョンに彼女のニックネーム(愛称)の由来を尋ねる。

 Tの本名はオッティーリエ・アドラステア・ホーエンシュタウフェン=バウムガルトナー。
 フォンという称号は省略。Tはイニシャルではない。

 ※Ottilie Adrastea Hohenstaufen Baumgartner
  →各単語の語源と、英語のofに該当するフォン(von)という称号から察するにドイツ系?

 T(ティー)の由来は、クラスの女子が彼女をティーと呼ぶようになった頃、
 日直だった谷口が学級日誌に「留学生の呼び方がTと決まる」と記載したことから。
 Tは谷口に握手を求めに行くほど、この愛称を気に入っている。

 Tいわく、ハルヒはスプリングデイ、古泉はオールドスプリング、長門はロングゲートだが、
 自分の名前には日本語にできそうな特別な意味がなく、
 古い悲劇に出てくる登場人物のようなので、少し憂鬱である。

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 Tいわく、ミステリ好きになったのは一番下の兄である双子の兄の影響。
 彼はどこにいるのかさえわからない変人で、ミステリを音読する習慣があった。

 Tにとって鶴屋は日本語の師匠。
 キョンがTの変な喋り方を指摘するが、ハルヒがそれを萌え要素と高く評す。

 ※「パニュルジュの羊」→フランソワ・ラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル』
  →自分の考えがなく、軽々しく他人の言動に同調すること

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 ハルヒが褒められて上機嫌のTに鶴屋のギミックがまだ残っている点を指摘。
 動揺するT。ハルヒに同調する古泉。

・朝比奈が自家製ブレンド茶に砂糖を入れ忘れたことから、
 ハルヒが鶴屋の話が欠点だらけの未完成の作品だったことに気づく。
 そしてTにどこまでが作り話なのか訊く。
 (渋茶を飲んで苦しむメイド姿の朝比奈の挿絵 / 大航海時代、トマト、イタリア、唐辛子、ピザ)

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ハルヒいわく、盗聴器の存在より、Tは鶴屋の内通者、共犯者。
 そして連想ゲームのように犯人の名前が決まるエピソード3はタイミングがよすぎる。
 偶然がすぎる。(これはキョンも指摘した)

 ハルヒいわく、外国にいることを示す場面がエピソード3にしかないのは不自然。
 ドクターと名刺ジョークしかいなかったのも不自然。
 古泉いわく、悲鳴に気づいたのが鶴屋しかいなかったのも不自然。

 古泉いわく、エピソード2の謎の祭りは実在したのか疑わしい。
 ハルヒいわく、尚子が実在したのかも疑わしい。

 ゆえに度重なる偶然と不自然な描写を考えると、鶴屋の話は作り話。これがハルヒの推理。

ハルヒいわく、主犯は鶴屋やTではなく、ミステリ研の部長センパイ。
 (6つ目の七不思議、人体模型の話も彼によるもの)

 脱帽したTいわく、エピソード1は事実。エピソード2も祭りの脚色以外は事実。
 エピソード3の尚子、兄、能登部(ノットベ)武尚は実在する。
 だが傷害事件や、武尚の挙動は作り話。

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 Tいわく、この挑戦状は文化祭で発表するミステリ研の推理アトラクションに使う予定だった。
 アイデアの元は会誌のキョン私小説

 ハルヒいわく、最大の問題は『彼女』の正体で、Tが傍にいないと推理できない。
 Tもアイデンティファイできない問題を認める。

 長門が「(ヘアピンが怪しいと)勘(で気づいた)」と大嘘をつく。

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 ハルヒがエピソード3の「ここはどこなんだろうねえ」から鶴屋が近くにいることに勘づく。
 T(オッティーリエ)を「リエ」と呼ぶ鶴屋が部室にやって来る。
 (朝比奈「おさとう絶対」 / 紙袋を片手に提げている鶴屋の挿絵)

 ※会誌のキョン私小説→8巻『憤慨』の「編集長★一直線!」
  「ヒトコトヌシ」や「葛城山の神」→『古事記
  「バンシーの叫び声」→アイルランドおよびスコットランドに伝わる女妖精

・鶴屋がお土産の蕎麦ぼうろを皆に配る。
 彼女いわく、メールは出張から戻って家から送っていた。
 エピソード1から3はあらかじめ書いてあった。
 今回はパスポートのいらない旅だったので好機だった。(羊羹を食べるハルヒ

 鶴屋とTが尚子に親近感を抱くハルヒを見て面白がる。
 (尚子→ドクター、ハルヒキョンという共通項がある)

 鶴屋が長門の能力を認め、ヘアピンの意味を悟ったキョンの直観に驚く。
 キョンいわく、違和感があった。

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 キョンと古泉が廊下からトイレへ。
 古泉がTのヘアピンはまさにチェーホフの銃であると評し、『安全マッチ』について語る。

 ロシアの劇作家兼小説家、アントン・チェーホフいわく、
 「物語の序盤に銃が壁に掛けられているシーンがあったとしたら、
 その銃はいずれ発砲されなくてはならない」。ようは「回収されない伏線は張ってはならない」。

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 キョンがヘアピンから、2月の宝探しの際に鶴屋が見つけたオーパーツを連想するが、
 鶴屋はあくまで一般人なので、いずれ自分が始末する問題になるだろうと考える。
 (300年以上前の金属棒、チタニウムセシウムの合金)

 ※オーパーツ→7巻『陰謀』のエピローグ
  敵対的未来人→9巻『分裂』~11巻『驚愕』の藤原

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 古泉がキョンを探偵より先に真相に到達するワトスン役と評し、
 本当はすべて解っていたのではないかと疑う。
 彼いわく、キョンはエピソード2の途中から絶妙なタイミングで絶妙な疑問を呈していた。

 キョンが読書談義を引き延ばすことで、Tが部室に残る理由を作ったのではないかと古泉を疑う。
 だが古泉いわく、むしろ自分は緊急解答役だった。
 アントニー・バークリーの『服用禁止(Not to Be Taken)』を読んだことがあるので、
 自分と長門だけは対応できた。エピソード3の推理で「とある理由で」と言ったのはそのこと。

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 古泉がキョンにエピソード1でハルヒが『あたし』は鶴屋ではないという思いつきの推理を言っても
 現実が改変しなかったことを話し、それが現実改変能力の収束を意味するのであれば無害だが、
 意識的な改変を凌ぐ無意識による改変を意味するのであれば、
 いずれ制御できなくなる(暴走する)と考える。

 彼いわく、後期クイーン問題は探偵が物語の中にいて、外を認識できないから成立する。
 だが全知全能の神のようなハルヒにはそれができる。(×宝くじ)
 ゆえに彼女を探偵にすると、彼女は物語を無意識に変えてしまう。
 彼女の改編能力は物語の外にいるすべての読書の記憶さえ改編する。

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 古泉が周防九曜(すおうくよう)の問題をキョン長門に任せる。
 彼いわく、橘は無害で、Tは一般人のはず。(佐々木)

 ※橘・佐々木・九曜→9巻『分裂』~11巻『驚愕』

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 Tがキョンと古泉に握手を求め、帰る。鶴屋も帰る。
 長門が珍しく読書を中断して、鶴屋を凝視する。

 ※ブラウン神父→ギルバート・キース・チェスタトン推理小説の探偵

・部室へ。珍しく穏やかなハルヒ。(トート・タロットの『太陽』)

 朝比奈いわく、エピソード3の「DNAコンピュータ」という言葉が気になった(禁則事項?)。

 ※朝比奈(大)「それはわたしたちの頭の中に無形で存在しています」
  →TPDD(タイムプレーンデストロイドデバイス)→4巻『消失』の第四章

 キョンが鶴屋からのメール3から、身体をくまなく洗い流しても取れず、
 肉眼では発見できない極小の位置情報発信機(GPSトレーサー)が
 鶴屋とTの身体の中にインプラントされていたのではないかと疑う。
 彼の妄想では、Tと鶴屋を凝視していた長門はそれを発見し、破壊した。

 ※ガルムナントカ家→T、バウムガルトナー?

 長門が一瞬だけ微笑む?(そろそろ夏)

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あとがき

・お待たせ。あとがきは書くことがないのでいつも困る。

・あとがきに対する自分の姿勢は、
 香港のミステリ作家、陳浩基(ちんこうき)による『13・67』のあとがきの解説に近い。
 すなわち、作品から何を感じるかは読者の自由であり、
 作者があれこれ書いて、読者の体験を邪魔すべきではない。

・短編の『あてずっぽナンバーズ』は風呂場でRSA暗号について考えている時に思いついた。
 入浴中(や散歩中)に脳が活性化する要因はルーティンワーク化や自動化か。
 それによって脳は不自然なことが起こっていると勘違いし、
 運動に釣り合うだけの思考を無意識に働かせるのだろう。

 中編の『七不思議オーバータイム』は彼らの高校に七不思議はないのか、
 という担当の問いから生まれた。

 長編の『鶴屋さんの挑戦』はやってみたかったことをまとめてやってみたもの。
 引用多数、鶴屋の一人称とかアレとかコレとか。

・すべての関係者と読者に感謝

最後に~2019年7月18日の京都アニメーションで起きたことについて

・言えることは2つ。あなた方を忘れない。あなた方が為したことを忘れない。
 記憶を大切にしていこう。(谷川流

・自分の一部を作ってくれたクリエイター達に感謝(いとうのいぢ